熊野古道をぜんぶ踏破してみようと思った。
トレイルランをはじめて、それまで興味のなかった何の変哲もないハイキング道や集落の道とか林道までもがおもしろくなってきた。
オルレとかジャランともいうべき道々である。(オルレは済州地方の朝鮮語で細道、ジャランはバリの言葉で道)
以前は車道脇を歩いたり走ったりは好きではなかったが、いまは特に嫌う気分は少なくなった。そういう気分にならないと大辺路はやり通せない。そのくらい舗装路を行かなければならない。
1日目(2/2)
紀伊田辺駅に22時41分到着。大辺路と中辺路の起点である闘鶏神社を参拝。
車の行きかいの多い県道を走り出した。
ザックの後ろにペツルの小さなヘッドライトを赤色点滅させて付けてある。ヘッドライトはバイオライト330。
SOLOMONの25Xにモンベルシュラフ#3、モンベルULツエルト、食糧1.5日分、水1L、エヴァ―ニューアルコールバーナー、ダウンインナージャケット、モンベルパーサライトジャケット、モンベルアクショントレールタイツなど詰めて4.5キロほど。
ウエアは裏起毛のモンベルタイツにショートパンツ、メリノウールTシャツ。
とにかく街を外れて冨田川まで行かないと、ツエルトは張れない。神社とか公園とかも寝場所としてあり得るのだが、やはりアヤシイ。
日にちが過ぎて1時に冨田川にかかる潜水橋についた。まったく眠くなくしばらく川沿いの道を走るが、急に風が出てきた。これ以上走っては翌日にさわると思って、1時半、河原の枯れ草の上にツエルトを張った。夜中強風、気温も低くカラダが冷え込む。
2日目(2/3)
5時前に起きて走りだす。手足が冬山のときの用に冷えてなかなか温まらない。
草堂寺に7時について、ようやく日が登りあたたかくなる。早朝から墓参りや掃除の方が来てあいさつをしてくれる。トイレを使わさせてもらう。
フリーズドライ食を食べようかとも思ったが、安居(あご)の渡しの予約時間に遅れたくないので、プロテインバーやようかんで朝食。
草堂寺からトレイルになり富田坂を快適に越える。安居の渡しに予定通り9時半に到着。かなりがんばった。
ひとりでも500円なので、申し訳ない気分。ふかぶかと船頭さんに頭を下げて船を見送る。
渡しからいきなり仏坂の急坂で、トボトボと歩いて登る。周参見へは川沿いの車道、長い!
12時、周参見王子神社。折から節分祭で雅楽が聞こえてくる。
境内の隅でお湯を沸かしてフリーズドライを食べる。向こうにオークワがあるので、食糧を少し買う。
馬転坂は生コン工場を横切って入り口に行くのだが、通行できないので迂回を促す掲示がある。まあ、いけないことはないだろうと急で細い階段状の道を上る。こんな道を平安時代の人が登ったのだろうか?と思えるような道で、もしかしたら今は線路があるあたりに道があったのかもしれないと思う。古道は鉄道、車道ができるたびに付け替えられたり、失われたりしてきたはずだ。そうでなくても平安時代から明治まで崩れて変更されたり、新たに楽な、あるいは近道も造成されてきたのに違いない。
馬転坂の後半は低木がまばらに生えた海が見える楽しい道になり、最後に海沿いの国道に出る。
西浜から山へ入る。分岐点の国道沿いに太い丸太が寝かせてあって、しばらく座って休む。さすがに疲れてきた。長井坂はまだまだ遠い。
山間の車道を3キロ半ほど歩くと長井坂に入る。冬の早い日没が迫ってくる。
高低差のある山道の低いところに土を積みできるだけ水平道にしてある。段築とか版築というらしい。
見老津が見えてきた。
急坂を下れば見老津に入ってしまうので、この山の中で寝たほうがいいだろう。18:30。
フリーズドライを食べて、カラダを温める。
平なところにツエルト張ったのだが、枯葉の上なので夜中にカラダがツエルトから抜け出たりして、やはり寒かった。
3日目(2/4)
少しゆっくり起きて7時出発。見老津を過ぎて、海沿いの国道を行く。
江須崎への入り口で、急に岬まで行きたくなって半島の遊歩道から江須崎へ渡る。
自然林が残っているが荒れ放題でもある。灯台を見て急いで古道へ戻る。
10時、道の駅すさみで休憩、トイレ。デコポンを一袋買う。これが道中のおやつには格別であった。
海沿いの道、平見という海岸段丘に開かれた集落を行く。
平見から平見へ坂を登ったり下りたりする。家々や神社の石積みが美しい。
4時田波のAコープで大休憩。大福やらサンマ寿司を食べる。甘いものを買ってザックに詰め込んで、飛渡谷道に入る。串本に明るいうちにつきたい!しかしもう脚がかなり疲れている。
串本に近い海辺の国道沿いに「尾鷲牛乳」のソフトクリームを食べる。これはうまい!この旅でいちばんの幸福感だった。
串本なのに尾鷲牧場?まあいいではないか、かなりこだわって牛を育てミルクを販売しているようだ。
日のあるうちに串本に入り、無量寺を参拝。
街中をコンビニ目指して走る。コンビニより串本温泉の看板が目に留まった。しばらく迷ったが温泉につかることにした。一気に真新しくなった気分で暗い国道を戻り、くじの川沿いに走る。道は高速道の工事の中を行く。とりあえず海岸に出て砂浜で寝ようと走る。
姫を過ぎて大浦の海岸の砂浜でツエルトを張る。強風でバタバタうるさい。コンビニで買ったそぼろ丼を食べる。
4日目(2/5)
6時に起きて走り出す。ちょうど日の出でたくさんの人がカメラを構えている。そんなにいいポイントなの?と海を見ると岩島に穴があいていて、その穴に太陽が入るのだ。
偶然だったが、これは素敵だ!
古座から海辺を行く道と山を行く道が分かれている。わたしは山を行く道を選んだ。9時、虫食い岩。道の駅はまだ空いてなく。買い物ができないから空腹のまま先を行く。
こういう色彩感覚がどこか東南アジア風である。
峠の地蔵への急坂の前に最後のデコポンを食べて、急坂を登る。
大辺路行程中、いちばん山らしい山である八郎山。
はるかに太平洋と紀伊半島の山々が見える。海岸の崖淵をいくより、こういう山道に方が安全で確実だったんだろう。古代の人たちの旅の大変さが身に染みる。
石組が見事。
掘割。岩を砕いて割れ門のように道をつけている。
山を越えれば、那智まではたいへんな登りはない。ひたすら走る。那智駅発終電17時25分には十分時間があるが、なんとなく先を急ぐ。那智の街中を走り抜け、いよいよ補陀落山寺への道に入る。残った脚力を出し切るように境内に入る。16時ちょうど。
補陀落山寺
熊野三所大神社
那智駅に隣接の温泉に入り、駅前のレストラン「ボヌール」で急いでビールを飲み、パスタを食べて、電車に乗った。